ずずの読書な日々
 
主に読書日記です
 



趣味

ひるの幻 よるの夢

 小池真理子(文春文庫)

六つの短編からなる小説ですが、どれも似たようなお話ではなく、
それぞれ趣向をこらした作品になっています。

報われなかった恋を偲んだり、あるいは報われても、
ちょっとしたキッカケで愛情が歪んだ形となり、
狂気を生み出したり。

そんな心理描写や情景描写がとても巧く描かれていて、
楽しく読むことができました。

この中で特に印象的だったのが
「秋桜の家」と「シャンプーボーイ」です。

「秋桜の家」は
再婚した相手の息子に、レストランで初めて会った時から惹かれ、
その息子の方も自分を意識していることを感じ、
夫と、息子の間で感情が揺れ動くお話なんですが、

その息子が意外なことを告白した日の翌朝、
霧でぼんやりと霞んだ秋桜畑の中を去っていく、
その情景描写がとても綺麗で、ため息がもれたほどでした。

「シャンプーボーイ」は
主人公が通っている美容室の若い男の子が、ある事情により、
一人暮らしの自分の家に居候することになったお話です。
お金がなくて部屋代が払えない代わりに、その男の子は
主人公に毎日シャンプーしてくれるのです。

親子ほど歳の離れた若い男の子なのに、
たくましい腕でシャンプーしてもらっている時は、あまりに心地よくて、
幼い子どもに戻ったような気分になるのです。

私もオバサンと呼ばれる年齢なので、その気持ちには充分、
共感できました(笑)



9月5日(水)11:22 | トラックバック(0) | コメント(0) | 趣味 | 管理

サマータイム

 佐藤多佳子(新潮文庫)

11才の進は雨の降るプールで、
大人っぽくてクールな雰囲気を持つ、2才年上の広一と出会います。
広一は数年前の交通事故により、父親と自分自身の左腕を亡くしていました。

右手だけで、ピアノで奏でられるガーシュインの名曲「サマータイム」に
魅せられた進は、姉の佳奈に広一を会わせます。

ピアノが弾ける佳奈は左手の伴奏部分を引き受け、
広一と合わせていくうちに心を通わせるようになります。

広一の突然の引越しにより、3人の関係は一旦終わりを告げるのですが、
進は広一の影響でピアノを習い始め、
佳奈は本気で誰かを好きになることもなく、

「また会えるといいね。」
広一がくれた手紙にあった言葉を胸に、青春時代を過ごします。


この本にはタイトル作の他に、関連作がいくつか入っていて、
佳奈の幼い頃の話や、広一の引越した後の話などもあり、
どれも、それぞれの人格形成を納得させるもので興味深く読めました。

広一のお母さんがジャズピアニストで、ジャズの名曲が
いくつかでてくることも、
ジャズ好きの私には嬉しい内容でした。

この小説は佐藤さんのデビュー作だそうです。
デビュー作で、こんなにきらきらした素敵な作品が書けるなんて、
その才能に脱帽です。



8月31日(金)11:14 | トラックバック(0) | コメント(0) | 趣味 | 管理

二十四の瞳

 壺井栄(新潮文庫)

確か私が小学生だった頃(かなり昔ですが)、
この本は推薦図書だったように思います。

ところが、この本を読むのはまったく初めてでした。
友人が、古い映画を観て感動した、と言っていたので、
原作を読んでみたくなったのです。

瀬戸内海べりの、ある小さな村に赴任してきた大石先生と
12人の子ども達のお話です。

最初の頃は、幼い子ども達が8キロもの道のりを歩いて
足に大けがを負った先生のお見舞いに行ったり、
学校のそばにある川で獲れたカニを食べようとしたり、
ほのぼのとした話が続くのですが、

やがて戦争という抗うことのできない運命の渦に
大石先生も子ども達も巻き込まれていきます。

お国のために戦って命をおとすことは名誉なこと、と
子ども達に、小さな頃から教え込まなければならない
教育に疑問を抱き、一旦は教職を離れる大石先生ですが、

夫を戦争で失い、家族を養うために再び教育の場に戻ると、
かつての教え子達の面影を残す子ども達に出会います。


戦争をテーマにした小説や映画やドラマは
切なく悲惨なものが多いので、いつもさけていた私ですが、
知っておかなければならない事実があるということを
この小説によって思い知らされました。

どんなに別れがつらくても、戦地に向かう人々に向かって
「もどってきて。」と大きな声では言えない、
もし誰かに聞こえたら、非国民と呼ばれてしまうような、
そんな時代があった、ということを知ることが出来て
本当に良かったと思いました。

戦争の恐ろしさを知るために、多くの人々に読まれて欲しい一冊です。



8月28日(火)11:04 | トラックバック(0) | コメント(0) | 趣味 | 管理

避暑地の猫

 宮本輝(講談社文庫)

軽井沢の別荘に一年に一度、避暑にやってくる別荘主の家族と、
その別荘の敷地内に住む番人の一家の、愛と憎悪の物語です。

宮本さんの作品は数冊読んでいますが、これが一番インパクトが強くて
一番好きな小説になりました。

軽井沢の森閑とした風景と、それに相対するどろどろとした
人間模様を巧くからめて、
読み手を幻想的な世界に導くのです。

思わせぶりな前ふり、
伏線の張り方、
人の心の強さや脆さ、
霧にけむる軽井沢の情景と、それに惑わされる人々の
心理描写。

もう、お見事!と言うしかないくらいの力作でした。

決して後味の良い終わり方ではなく、
あの人はどうしてあんな行動にでたのか?などの
数々の疑問を残したりするのですが、

幻想的な宮本ワールドに浸りたくなって、
何度も読み返してしまうと思います。



8月25日(土)08:42 | トラックバック(0) | コメント(2) | 趣味 | 管理

海を抱く(BAD KIDS)

 村山由佳(集英社文庫)

「BAD KIDS」で端役で出ていた人達が主人公になる、
もうひとつのBAD KIDS物語です。

都の親友、恵理は成績優秀、品行方正で生徒会の副会長も務め、
周りの信頼も厚い。
しかし恵理には誰にも言えない陰の部分があって、
それが、異常なほどの性欲を持て余している、ということでした。

しかも親友の都に対してまで恋心のような感情が芽生えてしまい、
自分は果たして男性を受け入れることができるのか、確かめるためと、
抑えきれない性衝動にかられたため、夜の街をさまよい歩き、
声をかけてきた見知らぬ男性と関係をもってしまいます。

そしてホテルから出てきたところを同じ高校に通う光秀に目撃され、
誰にも言わないことを条件に、
「私といつでも寝ていい。」と彼にまで関係をせまるのです。

最初はお互いの欲望を満たすためだけの関係でしかなかったのですが、
それぞれが抱える家庭の事情に向き合い、苦悩していくうちに、
唯一、自分をさらけ出せる、かけがえのない存在であることに気付くのです。


私にとっては、かなり衝撃的な内容でした。
女の子の性衝動をテーマにした話は、今まであまり
読んだことがなかったし、
それを女性の作家がリアルに描いた、というところが強烈な印象を
残しました。

けれど、軽薄な官能小説のようにならなかったのは、
若いふたりが、真面目に自分の性衝動と向き合い、
苦悩していたところが良かったのだと思います。

恵理が、自分がかかえている欲望が、どのような種類のものなのか、
図書館で書物を調べるところなどは、いかにも真面目な生徒らしく、

あるいは周りからは遊び人で軽いヤツと思われている光秀も、
実は好きでもない人と身体の関係を持ったことなどなく、
恵理との関係に疑問をもちながらも、若さゆえについ、
ひとり暮らしの部屋に恵理を呼んでしまい、
その度に後悔し、恵理を理解しようと、心の交流も
はかろうとするところなど、
そこらへんにいる男の子よりも、よほど好青年じゃないか、と
思ったりもしました。

そして、都。

やはり都のキャラは好きです。
我が道を行きながらも、ちゃんと周りの人達も見てる。
何もかも、わかってるけど、知らないふりしててくれる都。

こんな素敵な友達がいたら、私も恵理のような感情を持ってしまうのではないか、と思ってしまいました。



8月23日(木)10:43 | トラックバック(0) | コメント(0) | 趣味 | 管理


(49/50ページ)
最初 41 42 43 44 45 46 47 48 >49< 50 最後