ずずの読書な日々
 
主に読書日記です
 


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夏空に、きみと見た夢

 飯田雪子(ヴィレッジブックス)

この作品に関しても、作者に関しても何も知識がなかったのですが
(ごめんなさい!)
本屋さんでこの文庫本をみつけて、帯に書いてある

「書店員さん涙する」
「30過ぎたオッサンですが、胸がキュンとなりました。」
「こんな傑作に巡り会えて良かった。」

などの言葉が気になり、読んでみました。


美人で男の子にはモテるけど、気の強い女子高生、悠里の前に
他校の見知らぬ男子高校生が訪ねてきます。

その子は天也(たかや)という親友の葬式に出席して欲しい、
天也はきみのことがすごく好きだったから、と言うのですが、
突然、面識のない人の葬式に出て欲しい、と言われても困るので
激しく拒否すると、土下座までして頼むのです。

そこで仕方なく、不貞腐れながら出席するのですが、
そのあと、悠里の身に次から次へと不思議な出来事が起こります。

やがて天也が幽霊となって悠里の前に姿を現し、
危機を救ってくれたり、悩んだ時に助言を与えてくれるように
なります。

天也の存在の大きさに気付いた悠里は、かつて自分はこれ程まで
ひとりの人と向き合ったことがあっただろうか、と自問自答し、
今までの無気力で怠惰な生き方を反省するようになるのです。


やはり泣いてしまいました。
悠里はイマドキの女子高生と思いきや、無気力で怠惰な
生き方をしているのには、ちゃんとした理由があったのです。

孤独な日々に温もりを与えてくれたのが天也なのですが、
その人は触れることも抱きしめることもできないのです。
そんなもどかしさが切なく伝わってきたのですが、
ラストが希望を持てるものなので、救われました。



9月15日(土)09:09 | トラックバック(0) | コメント(2) | 趣味 | 管理

冬のはなびら

 伊集院静(文春文庫)

逆境に立ち向かい、ひた向きに生きてきた人達の、6つの短編集です。

会社の存続が危ぶまれても、どうにか現状を維持しようと頑張る男性達、
老年の恋に目覚めて、ある決心をした女性、
亡くなった友人の意思を継ぐために未知なる世界に旅立って行った人、

そんな人達の物語です。
読みながら、うるうる涙するものではなく、
読み終わったあと、しばらくしてから感動の波がじわ~っと
訪れるような、そんな心温まる内容でした。

この短編集の中で一番気に入ったのが、
「雨あがり」です。

前半は、コンプレックスをかかえ、内向的で不器用な自分を
どうにかしたい、と思いつつも今の生き方を変えられない、
18才の男の子の心の葛藤が描かれているのですが、

後半は、それを覆すかのように、意外にも周りの人達は
彼を温かい目で見てくれていて、
彼の人柄や仕事振りを認めてくれていることに気付かされるのです。

人は誰でも、たったひとりでも自分を認めてくれる人に出会えると、
それが大きな救いや励みになるのだと、しみじみ感じました。



9月13日(木)11:33 | トラックバック(0) | コメント(0) | 趣味 | 管理

ひるの幻 よるの夢

 小池真理子(文春文庫)

六つの短編からなる小説ですが、どれも似たようなお話ではなく、
それぞれ趣向をこらした作品になっています。

報われなかった恋を偲んだり、あるいは報われても、
ちょっとしたキッカケで愛情が歪んだ形となり、
狂気を生み出したり。

そんな心理描写や情景描写がとても巧く描かれていて、
楽しく読むことができました。

この中で特に印象的だったのが
「秋桜の家」と「シャンプーボーイ」です。

「秋桜の家」は
再婚した相手の息子に、レストランで初めて会った時から惹かれ、
その息子の方も自分を意識していることを感じ、
夫と、息子の間で感情が揺れ動くお話なんですが、

その息子が意外なことを告白した日の翌朝、
霧でぼんやりと霞んだ秋桜畑の中を去っていく、
その情景描写がとても綺麗で、ため息がもれたほどでした。

「シャンプーボーイ」は
主人公が通っている美容室の若い男の子が、ある事情により、
一人暮らしの自分の家に居候することになったお話です。
お金がなくて部屋代が払えない代わりに、その男の子は
主人公に毎日シャンプーしてくれるのです。

親子ほど歳の離れた若い男の子なのに、
たくましい腕でシャンプーしてもらっている時は、あまりに心地よくて、
幼い子どもに戻ったような気分になるのです。

私もオバサンと呼ばれる年齢なので、その気持ちには充分、
共感できました(笑)



9月5日(水)11:22 | トラックバック(0) | コメント(0) | 趣味 | 管理

サマータイム

 佐藤多佳子(新潮文庫)

11才の進は雨の降るプールで、
大人っぽくてクールな雰囲気を持つ、2才年上の広一と出会います。
広一は数年前の交通事故により、父親と自分自身の左腕を亡くしていました。

右手だけで、ピアノで奏でられるガーシュインの名曲「サマータイム」に
魅せられた進は、姉の佳奈に広一を会わせます。

ピアノが弾ける佳奈は左手の伴奏部分を引き受け、
広一と合わせていくうちに心を通わせるようになります。

広一の突然の引越しにより、3人の関係は一旦終わりを告げるのですが、
進は広一の影響でピアノを習い始め、
佳奈は本気で誰かを好きになることもなく、

「また会えるといいね。」
広一がくれた手紙にあった言葉を胸に、青春時代を過ごします。


この本にはタイトル作の他に、関連作がいくつか入っていて、
佳奈の幼い頃の話や、広一の引越した後の話などもあり、
どれも、それぞれの人格形成を納得させるもので興味深く読めました。

広一のお母さんがジャズピアニストで、ジャズの名曲が
いくつかでてくることも、
ジャズ好きの私には嬉しい内容でした。

この小説は佐藤さんのデビュー作だそうです。
デビュー作で、こんなにきらきらした素敵な作品が書けるなんて、
その才能に脱帽です。



8月31日(金)11:14 | トラックバック(0) | コメント(0) | 趣味 | 管理

二十四の瞳

 壺井栄(新潮文庫)

確か私が小学生だった頃(かなり昔ですが)、
この本は推薦図書だったように思います。

ところが、この本を読むのはまったく初めてでした。
友人が、古い映画を観て感動した、と言っていたので、
原作を読んでみたくなったのです。

瀬戸内海べりの、ある小さな村に赴任してきた大石先生と
12人の子ども達のお話です。

最初の頃は、幼い子ども達が8キロもの道のりを歩いて
足に大けがを負った先生のお見舞いに行ったり、
学校のそばにある川で獲れたカニを食べようとしたり、
ほのぼのとした話が続くのですが、

やがて戦争という抗うことのできない運命の渦に
大石先生も子ども達も巻き込まれていきます。

お国のために戦って命をおとすことは名誉なこと、と
子ども達に、小さな頃から教え込まなければならない
教育に疑問を抱き、一旦は教職を離れる大石先生ですが、

夫を戦争で失い、家族を養うために再び教育の場に戻ると、
かつての教え子達の面影を残す子ども達に出会います。


戦争をテーマにした小説や映画やドラマは
切なく悲惨なものが多いので、いつもさけていた私ですが、
知っておかなければならない事実があるということを
この小説によって思い知らされました。

どんなに別れがつらくても、戦地に向かう人々に向かって
「もどってきて。」と大きな声では言えない、
もし誰かに聞こえたら、非国民と呼ばれてしまうような、
そんな時代があった、ということを知ることが出来て
本当に良かったと思いました。

戦争の恐ろしさを知るために、多くの人々に読まれて欲しい一冊です。



8月28日(火)11:04 | トラックバック(0) | コメント(0) | 趣味 | 管理


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