ずずの読書な日々
 
主に読書日記です
 



2007年9月21日を表示

夏と花火と私の死体

 乙一(集英社文庫)

タイトルからわかるとおり、ホラー小説です。

小学3年生の弥生は、ある理由で友人の五月を高い木の上から
突き落とし、死なせてしまいます。

そこに弥生の兄の健が駆けつけるのですが、五月が誤って落ちたと
勘違いし、母親に知らせようとします。

けれど大人が見れば、わざとやっとことがバレるのではないかと恐れ、
弥生は健に真実を告げないまま、死体を隠そう、と言い出します。

大人たちに見つかりそうになり、何度も隠し場所を替えるために
あちこち奔走するのですが。。。


この作品で興味深いのは、乙一氏が16歳の時に書いた、ということと、
物語を語るのが、弥生でも、健でもなく、殺された五月であることです。

「健くんが少し笑った。」とか
「弥生ちゃんの顔が青ざめた。」とか、
弥生に恨み言を言うわけでもなく、淡々とその状況を語っているのです。

そして、もっと興味をそそられたのが、一緒に収録されている
「優子」という作品です。

父親を亡くし、身寄りのなくなった清音(きよね)は政義という作家の家に
住み込みで働くようになります。
政義には「優子」という病弱の妻がいるのですが、
清音がその家に住むようになってから何日も経つのに、
一度も姿をみかけたことがないことに疑問を持ちはじめます。

食料を買いに行くのも、政義は、わざわざ隣町に行くように命じ、
近所の人々の目にもよそよそしさを感じ、
この家には何かがあると、政義の留守中に優子の部屋を調べるのです。


伏線の張り方も素晴らしいし、ラストも真実を明らかにしながらも、
どこか曖昧で、あとは読者の想像にゆだねる、といった形にしたのもいい。

これだけの作品を書きながら、作者に非凡の才能がある、という自覚が
さっぱりないのも、面白いところです。



9月21日(金)10:10 | トラックバック(0) | コメント(0) | 趣味 | 管理


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